兄の家

住宅建築 2017年10月号 掲載



 

敷地は河川沿いの農村地域の一角にあり、五穀豊穣を願う祭事が今も大切に受継がれ、豊かな地域交流が保たれている。

 

その一方で、住むには厳しい一面も併せ持っていた。夏には台風による河川の氾濫で、度々水没に見舞われ、冬には、遠州の強い北風「からっ風」で家が冷され、洗濯物を干すことさえもままならない。

 

そこで、これらの災害から日々の生活を守りながら、地域や親族との繋がりと住まいを結びつける役割として、開放できる中庭を設ける計画とした。

まず、建物を持上げ、盛土を行い、中庭を囲い込むように、二つの建物を配置することで、生活の場を災害から守るようにした。中庭には、近所の方も気軽に立ち寄れるよう、門扉から直接入れるようにしている。

 

また、250坪を超える広い敷地は、この中庭を中心に、5人家族の家と、多趣味な兄のための別棟の趣味室、田畑、駐車場の5つで構成され、台所や食堂から、いつも子供達や家族の気配が感じられるよう配置している。

 

家族が集う食堂の大きな窓からは、夏には心地よい風が家の奥まで抜けていき、窓の外には、春には土手一面の「菜の花」、夏には「打ち上げ花火」、秋には「中秋の名月」と、季節の移ろいを感じながら食事が楽しめ、自然と会話が弾む、家族のお気に入りの場所となっている。

中庭は、四季折々の草花を楽しむだけでなく、子供たちが走り回れるよう広く芝を張り、家庭菜園の畑や、果樹やハーブを多く植え、家族みんなが楽しめる庭とした。春には、隣接する神社の樹齢100年を超える美しい桜を見に、自然と親戚や友人が集い、中庭の賑わいは増す。

 

過酷な自然環境に逆らわず、受け流すように、地域に寄り添った、おおらかな住まいを作り出すことが設計の課題であった。竣工して一年ではあるが、甥っ子たちが、自然と触れあう中で、弾ける笑顔と大きな笑い声を響きかせ、日々、新しい発見や経験をしながら、のびのびと暮らしていることが、何よりも嬉しく思っている。

(吉武聖)