住宅建築 2023年8月号 掲載
「家のつくりようは夏を旨とすべし」と吉田兼好は『徒然草』で残しているが、私は「冬を旨とし」て、この家をつくった。
敷地は、新潟県春日山城の麓、水田が広がる里山に建つ夫婦の家である。
積雪2.5mの豪雪地域であることから、冬には雪下ろしや雪かき、雪囲いといった冬の備えがかかせず、その負担は大きい。
私は、この雪で覆い閉ざされるわずらわしい日常を、建築の力で取り払い、冬でも里山の景色を楽しむ心のゆとりと、穏やかな暮らしができるようにと、想いを込めた。
まず、玄関以外の居住スペースをすべて二階に持ち上げ、大雪の時でも、日々の生活が雪に埋もれることなく、見晴らしと日当たりを確保した。また、一階に居室が無くなったことで、雪から窓を守るための雪囲いも不要となった。
つぎに、屋根の上に、普通乗用車が80台載っても耐えうる、強靭な木構造とすることで、積雪2.5mまで雪下ろしの必要のない「耐雪式住宅」を叶えている。
また、耐震コアを用いたピロティ部分は駐車場とし、車や玄関ポーチが雪で埋もれることなく、雪かきの負担軽減も図っている。
2階のリビングから望む里山の人々の営みや、春日山城の風景は、四季折々に変化する。
春には田んぼに張った水が、空を映す水鏡となり、夏には、風に揺れる稲の青波が涼しさを運ぶ。実りの秋には、黄金の稲穂の絨毯に自然の恵みを感じ、雪積る冬には、里山一面の美しい雪景色に心が奪われる。
引き渡し後、建主が「朝は窓からの景色が楽しみで早起きしてしまい、夜は月の光に映し出される雪景色が幻想的で、ついお酒も進み、寝不足になりがちです。」と笑って教えてくれた。
雪国の冬の暮らしは、厳しく過酷だ。
「冬を旨とし」、雪国の負の部分を建築の力で取り除くことから始めた家づくりだったが、最後に残ったこの家の豊かさは、窓から望む、一年を通した里山の人々の営みと、春日山城の風景そのものだと私は思う。
(吉武聖)